2005年 12月 04日 ( 1 )

記憶は弱者にあり~マルセ太郎という芸人

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 真向かいに座る上司の机には、透明なシートの下に『マルセ太郎』という芸人の写真が挟まれている。所狭しと積み重なった書類の間から時々覗くマルセ太郎の顔。彼女はなぜ、他ではなくマルセ太郎の写真を挟んでいるのだろう?いつか尋ねてみようと思いながら、まだ聞けないままでいる。「なぜ、他ではなくマルセ太郎なのか?」、マルセ太郎とはそう興味を抱かせる芸人だ。そして、そのマルセ太郎の写真を飾っている彼女の感性に私は興味を持つ。

 2001年に肝臓ガンのために亡くなったマルセ太郎さんは、1933年、大阪は生野区に生まれた在日韓国人二世。動物模写や漫談、映画の人物模写や批評を織り交ぜた一人舞台「スクリーンのない映画館」など、独自の世界を繰り広げてきたピン芸人だそうだ。文末を伝聞調で締めくくるのは、私が彼の舞台を見た事がないからである。「弱者の視点」「体制への批判」「自身の体験」から芸を生み出す彼の名前は度々耳にする事はあったものの、終ぞ見る機会に恵まれなかった。

 図書館で写真集『芸人 マルセ太郎』を借りてきた。なんだ!なんだ!この顔は!迫りくる彼の表情は、東大寺の金剛力士像を彷彿とさせる彫刻的な顔。表情が既に芸術的だ。哀切・悲哀・哀歌・哀号、「悲しみ」ではなく「哀しみ」を感じさせる表情がそこにはある。

 生前彼がよく言っていた言葉。 『記憶は弱者にあり』 歴史の真実は強者によって簡単に塗り替えられ、強者によって隠蔽される。しかし、最も事実を記憶している側は踏みつける側の強者ではなく、踏みつけられ、痛みを伴う弱者の側だ。彼はこの事を、舞台の上で芸人としてどの様に表現したのか?

 『せめてよき外野席の客でありたい。
 世の中には、弱い人のために犠牲をいとわず、
 勇気をもって闘っている少数の人たちがいる。
 彼らを孤独にさせてはならない。
 外野席から声援を送ろう。』


 弱者の視点を見失う事のないポジションに居よう。そのために、出来るだけ彼らの傍らに居て、彼らの気持ちに耳を傾けよう。そう決断したのは私だ。心ある外野席の客から声援を送られる様な、出来るだけ誠実な仕事と誠実な生き方をしよう。

                            つばき

by bigcamellia814 | 2005-12-04 15:54 | 言霊