弔いの夜

 昨年秋、仕事で訪れた某D大学で、偶然幼なじみに再会した。
高校卒業以来の再会!

 互いの母親同士が10代の頃からの親友で、彼の母親が美容師だったものだから、小さい頃から髪を切ってもらうのは必ずそのおばさんだった。だから、彼女には、身内の様な親しみを今でも抱いているけれど、彼女の息子であるその彼とは、幼なじみと言えど、異性だったし、同い年だけど中学までは別々の学校に通っていたし、高校は同じだったけれど学科が違ったので、ハッキリ言って、再会したその瞬間までまともに話したことなどなかった。それを「幼なじみ」と言うのかどうかわからないけれど、とにかく、同郷で、そして互いを幼い時から知っていたというのは事実。

 彼が神戸に住んでいることは知っていたし、偶然それらしい人を電車で見かけたこともあったけれど、如何せん「まともに話したことのない」幼なじみである。それ以上、何か行動を起こす事はなかった。けれど昨年秋の再会後、何度かメールのやり取りをし、昨日、一緒に食事をすることになった。たぶん、というか絶対、彼と差し向かいで食事をするなどという行為は初めてであり、そして、それ以前に差し向かいで話をするのも初めてである。

 しかし、これが意外にも意外!
予想以上に、かなり話が合う人だったのだっ!

 Jazzやクラッシックが好きだと話す彼に対し、
「あたしねぇ、クレイジーケンバンドが好きなの♪」と話すと、
「落ち込んでた時によく聞いてたよ。子ども生まれる前は(彼は二児の父親になっていた。)ライブにもよく行ってたよぉ。」と彼。
コイツ、クレイジーケンバンドの効果的な処方を心得ているじゃないかッ!

 後ほど葵にこの話をすると、一句詠んだメールをよこしてきた葵。
『剣さんで 縮まるふたりの 時間かな』

 ハイ、確かに!彼のこの一言を境に、急速に彼への信頼の度合いが増しましたわっ、わたくし。

 同級生達の噂話をあれやこれやと話しながら、共通の友人である1人の女性の事を話した。

 20代の後半だっただろうか、彼女は他界した。
死因は「事故死」とされていたが、不審な点も多く、「自殺だったのではないか。」と友人から伝え聞いた。それが事実かどうか定かではないが、そう言われ、私自身「やっぱり」と思ったのには、それなりの理由がいくつか頭の中に浮んだからだ。

 彼女に最後に会ったのは、亡くなる2年程前、東京で。
私の友人が、当時売れに売れてたある社会学者と対談をするからということで、東京まで足を運び、その会場で偶然にも再会した。大学在学中から疎遠になっていたので、一瞬彼女のフルネームが思い浮かばず、おそるおそる声をかけた。

 大学在学中、もらった手紙には「精神科に通っている」と書かれていた。疎遠になってからも、その事がずっと気になっていたが、目の前の彼女は、明るい表情で、隣りには彼氏もいた。そして、その社会学者を指し、「彼の追っかけなの。」と言っていた。

 その後、一度だけ手紙をもらっただろうか?
それが、彼女が私に伝えてくれた最後の言葉になった。

 幼なじみの彼は、中学時代の彼女の話をしてくれた。
映画好きだった彼女は、「スクリーン」等の映画雑誌を愛読していたようだ。
同じく映画好きだった幼なじみの彼。
ある日、彼女が何も言わず彼の肩を叩き、
「スクリーン」の切抜きをくれたそうだ。
その切抜きの中身は、「ビーバップハイスクール」。
確かに彼は映画好きだったけれど、別に「ビーバップハイスクール」が好きだった訳ではないし、その手の邦画が好きだった訳ではない。
でも、「あなたはこういう映画が好きなんでしょ?」と言うように、
しかし無言で渡された「ビーバップハイスクール」の切り抜きの事を、彼は今でも忘れられないと言う。だから、彼女が死んだことを知った時に、「ショックだった。」と話してくれた。

 不謹慎かもしれないけれど、彼の話を聞いて大笑いした。
無言で背後から近寄り、「ビーバップハイスクール」の切抜きを渡す彼女の姿が手に取る様に思い浮かぶからだ。その場に流れていた空気の重量さえ手に取る様に伝わってくる。

 確かに変わった人だった。
いつも学生カバンはパンパンで、両手に重い荷物を下げて歩く姿は、まるでモテ路線を目指す女子からは逸脱していたし。
お弁当の冷凍コロッケは、「そのウチ、解けるから。」と電子レンジでチンされてなくて、時々硬いまんま食べてたし。
一緒に歩いてたら、「あっ、今、椿の足元に頭があった。」とか言うし。
三島由紀夫の文学・そして裸体を強烈に敬愛してたし。

 でも、高校時代、部活のメンバーの中で、一番話した人。
そして、いっつも一緒に帰った人。
彼女が私にかけてくれる言葉のどれもが、穏やかで優しかった。

 高校時代、彼女がくれた手紙。
もう、うる覚えだけれど、
私のことを「りんごのような人」と書いてくれていた。
嬉しかったの、その表現が。
だって、私が一番好きな食べ物は「りんご」だからね。

 20代でこの世を去った彼女。
死ぬ前に何考えてたんだろうねぇ。
彼女が死んだと聞いて以来、時折ボンヤリとそんな事を考える。
今となってはもう尋ねることも出来ないけれど、
いつか私もあっちの世界に行った時、尋ねてやろうと思っている。
早死にしやがって、コラっ!

 幼なじみの彼とはいろんな話をしたけれど、
一番嬉しかったのは、彼女の話が出来たこと。
大笑いしながら、一緒に彼女を弔うことが出来たこと。


                              つばき

by bigcamellia814 | 2009-01-10 00:19 | TSUBAKIng Times

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