BAR探偵にて

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 週末の夜は、京都で過ごした。
土砂降りの雨の中、友達に誘われて、京大・西部講堂前で上演されたテント芝居を観、
その後、BAR探偵に向かった。映画監督・林海象さんのお店だ。
友達が、「椿に紹介したい」と言うので付いて行った。
彼の作品をろくに観てない後ろめたさを感じながらも、トコトコと付いていく。

 ほの暗い、オレンジ色の空間。
古めかしい作り付けの棚、並べられた本、
緑色のタイルが敷かれたテーブル、カウンターを挟んだバーテンダーとの距離、
そして例の探偵の絵。
久々にBARらしい場所に来た。
お酒を飲む習慣がないと、こういう場所から縁遠くなるのだと小さな後悔を覚える。

 大きなテーブルに案内され、監督もそばに座られた。
映画監督、歌舞伎役者の友人、ある役者さんの付き人をやっている男性3人が、
取り留めなく芝居のことを話し続ける。
何杯も酒をお代わりし、監督は繰り返し巻きタバコを作り、
隣り座った彼はチェーンスモーカー。
しかし、不思議とのその日はタバコの煙が気にならなかった。

 私はずーっと黙って、彼らの話を聞いていた。
自分のことは一切語らず、ただただ黙って彼らの話を聞いた。

 退屈ではなかった。
知らない世界の話を聞けるのは静かに心躍る。

 彼らは私について何か尋ねることもなかった。
だからと言って疎外感は特に無い。
静かにそばにいる私に気を使うことすら忘れ、彼らは話に夢中だ。
それが楽だった。

 自分を語らず、ただそこに居る。
私が何者であるか、何をしているか、何を考えているか、
一切語らず、しかしそこに居ることを疎外されない。

 36協定など全く通用しないような世界で生きる彼らの前で、
わざわざ労働運動の話を持ち出す必要もないだろう、今日くらい。
解雇争議をたたかう当事者として、自分を語る必要もない、こんな素敵なBARで。

 解雇争議の当該は、たたかうことを選択した以上、
自分を語ることから避けられない。
人前で、自分が解雇されたプロセスや、使用者から投げつけられた酷い言葉、
当時の給料の額面や争議の勝敗まで、あけすけだ。
しかし、そんな一切合切を捨てたい時もある。
自分について語らず、普通にそこに居たい時もある。

 男たちの無神経さが、
そんな私の小さなわがままを叶えてくれた夜だった。

 監督には、名前と目を褒められた。
BARを出る時、監督とハグをして、
「きれいな目をした方ですね」と褒めていただいた。
昔から、茶色い目のことを褒められるのが好きだ。

 この目が濁らないように生きたい。

     つばき

by bigcamellia814 | 2012-06-19 01:52 | TSUBAKIng Times

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